2020年4月に労働者派遣法が改正されます。2020年労働者派遣法改正の最大ポイントは「同一労働同一賃金」です。
- 正社員の方が派遣社員よりも残業手当が多くもらえる
- 正社員には病気休暇があるけど派遣社員にはない
- 正社員は休憩室が使えるが派遣社員は使えない
このように、これまでは正社員と同じ働きをしているにもかかわらず、派遣社員だからという理由で給料が低かったり、会社の施設が使えなかったりという不利な点がありました。
2020年の改正後は、派遣社員と正社員の待遇の差を解消し、派遣社員も働きに合った待遇が受けられるようになります。
主な改善点は次の2つです。
- 給与について、正社員との不合理な待遇差がなくなる
- 福利厚生について、正社員との不合理な待遇差がなくなる
今回は2020年の労働者派遣法改正によって、派遣労働者にどのような影響があるかをわかりやすく解説します。
今までの労働者派遣法についてもおさらいしていますので、これを機に労働者派遣法について理解を深めましょう。
目次
2020年4月に改正される労働者派遣法の知っておくべきポイント
ではさっそく、2020年4月改正の労働者派遣法のポイントをわかりやすく紹介していきます。
今回の改正では派遣元企業(人材派遣会社)や派遣先企業に対する内容が多いため、派遣労働者にとっては少し複雑な話に感じるかもしれません。
ですが制度を理解しておくことで、もし不当な待遇を受けたときに、すぐに気がつくことができるので、理解しておいて損はないでしょう。
1.「同一労働同一賃金」とは不合理な待遇差を解消するもの
そもそも2020年4月の派遣法改正の目的である「同一労働同一賃金」ってどういう意味なの?と思った方もいるでしょう。
厚生労働省の公式サイトには、以下のように記載されています。
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
引用元: 厚生労働省
これを見ると派遣社員だけでなく、パートで働いている人や契約社員も「同一労働同一賃金」の対象であることがわかりますね。
「同一労働同一賃金」を導入するのは、雇用の形態に関係なく、個人の働きに対する処遇を受けることができ、自由な働き方ができるようにすることが目的なのです。
この「同一労働同一賃金」を実現するため、賃金(基本給、賞与、諸手当、退職金、通勤手当)が派遣労働者も正社員と同等の待遇が受けられるようになります。
また賃金だけでなく、派遣労働者という理由で利用が制限されていた施設が利用できたり、業務に必要な教育を受けられるようになるのです。
2. 賃金の決め方は「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2種類
2020年4月からの労働者派遣法改正により大きく変わるのは、派遣社員の賃金の決め方です。
今までは派遣社員の賃金を決める基準というものは、明確にされていませんでした。
ですが今回「同一労働同一賃金」という目的のもと、派遣社員も正社員と同等の賃金が支払われるように新たな基準が設けられました。
派遣社員の賃金を決める基準は「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2種類あり、派遣元はどちらかの方式を選択することとなります。
では派遣社員の給与の決定方法について、詳しく見てみましょう。
【派遣先均等・均衡方式】派遣先の正社員の賃金を基準とする
「派遣先均等・均衡方式」は、派遣先が派遣先の通常の労働者(正社員)の待遇について派遣元に情報提供し、それに伴って派遣元が派遣労働者の賃金を決める方式のことを言います。
均等と均衡の違いは次のとおりです。
均等待遇 | 業務の内容や責任の程度、人事異動の範囲などが同じ場合は差別扱いを禁止 |
---|---|
均衡待遇 | 業務の内容や責任の程度、人事異動の範囲やその他の事情を考慮して不合理な待遇差を禁止 |
つまり「派遣先の正社員と同じ仕事内容で同じ責任を負っているなら、派遣社員の賃金を正社員と同じ金額にする」、もしくは「派遣労働者の賃金を低くするなら合理的な理由が必要だ」ということです。
またこれに伴い、派遣社員という立場だけで給与を決めるのではなく、派遣労働者の職務内容や成果、意欲、能力、経験等の向上を考慮して賃金を決定するように努めなければならないという努力義務が課せられます。
※多くの派遣先企業は、派遣元に待遇情報を公開することを避けたいと考えており、「派遣先均等・均衡方式」が適用される企業は少ないと考えられます。
【労使協定方式】同種の業務に従事する一般労働者の賃金を基準とする
労使協定方式は、派遣労働者を含む過半数労働組合または過半数代表者と、派遣元とで労使協定を書面で結び、この労使協定で決めた事項に基づき待遇を決める方法です。
労使協定方式の具体的な賃金決定方法は、以下のとおりです。
- 派遣労働者と同じ種類の業務に従事する、一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の金額
- 派遣労働者の職務内容や成果、意欲、能力、経験等の向上がある場合は公正に評価して賃金を改善する(通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当を除く)
「派遣先均等・均衡方式」と異なり、同じ種類の業務に従事する一般労働者の賃金水準をもとに賃金が決まるため、派遣先の正社員の給与額に影響されることはありません。
一般労働者の賃金水準は、基本的に毎年局長通達で示す統計(賃金構造基本統計調査及び職業安定業務統計)を用います。
待遇が決まる過程について派遣元から説明を受けられます!
2020年の労働者派遣法の改正により、派遣労働者が不合理な待遇差を感じないように、待遇に関する説明義務が強化されます。
雇入れ時、派遣時、さらに派遣労働者から説明を求められたときは、待遇の詳細と、給与額が決まった根拠を派遣元が必ず説明しなければならないという決まりです。
雇入れ時や派遣時に、待遇が決まる仕組みを説明してもらえるはずなので、よく確かめておきましょう。もしわからないことや、納得ができないところがあれば、必ず派遣会社に質問するようにしてください。
3. 派遣労働者も退職金や交通費(通勤手当)が受け取れる
「派遣労働者は交通費や退職金がない」というのがこれまでの一般的な認識だったと思います。
ですが2020年4月からは改正労働派遣法の施行により、派遣労働者も退職金や交通費(通勤手当)が支給されるようになります。
これも「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、基本給、賞与、諸手当、退職金、通勤手当を含む「賃金」において正社員と派遣労働者の不合理な待遇の差をなくすためです。
派遣労働者の退職金額の決まり方
派遣社員の退職金の決まり方は、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」とで異なります。
「派遣先均等・均衡方式」では派遣先正社員の待遇と比較し、不合理のない金額が算出されます。
もし派遣先に退職金制度がなければ、派遣労働者も退職金を受け取ることはできません。
一方「労使協定方式」の場合は、次の3つのなかから受け取り方法を決めます。
- 退職金制度で受け取る
派遣先企業を退職するときに、勤続年数などによって決まる退職金を受け取る方法。
厚生労働省からの通知(職業安定局長通知)を一般退職金(※1)の水準として、それを下回らない範囲で各派遣元企業が支給額を決めます。ただだれでも受け取れるというのではなく、「勤続年数最低3年」といった条件を満たす必要があります。
- 退職金を前払いで受け取る
毎月の賃金に加算して、前払いで退職金が受け取れる方法。
局長通知で「一般退職金」の費用が示されるので、その額と派遣労働者に支払う退職金相当の手当等の額を比較して決めます。厚生労働省のマニュアルでは時給に6%上乗せするとあります。
- 中小企業退職金共済制度などの退職年金制度へ加入して受け取る
中小企業退職金共済制度等に局長通知で示される「一般退職金」の退職費用の水準以上の掛金額で加入する場合は、一般退職金と同等以上とされます。
※1 一般退職金は同様の地域、同主の業務、同程度の能力・経験の3つの要素から算出される一般労働者の退職金のこと。毎年6月~7月に発出される職業安定局長通知に示される。
退職金制度が派遣元会社に大きな負担になるかも
「労使協定方式」の場合、現在退職金制度がない派遣会社も退職金を支払わなければならないため、半強制的に退職金制度を設ける必要があります。
退職金制度がない企業と「派遣先均等・均衡方式」で契約すれば、退職金の支給義務はありませんが、「派遣先均等・均衡方式」は派遣先企業にあまり好まれていないため(労働者情報を派遣会社に提供しないといけないから)、派遣会社は労使協定方式に備えなければいけないのが現状のようです。
派遣労働者の交通費(通勤手当)の決まり方
交通費(通勤手当)も退職手当と同じく、「派遣先均等・均衡方式」の場合は、派遣先企業の正社員と同じ待遇にする必要があります。
一方「労使協定方式」の退職手当は、「実費支給」と「定額支給」の2つの方法のうち、労働者と使用者との話し合いで決めるしくみです。
実費支給は、派遣先の場所と住んでいるところの通勤距離や通勤方法によって支給額が決まります。
定額支給は、一般通勤手当(72円)※1 で支払うという決まり方で、時給に上乗せする形で支給されます。
※1 一般通勤手当とは一般労働者の、1時間の勤務に対する通勤手当に相当する金額のことです。金額は変更になる場合があります。
4. 賃金以外の福利厚生でも正社員と同等の待遇が受けられる
2020年4月の労働者派遣法の改正により、給与面以外の福利厚生でも、正社員と派遣労働者が同等の待遇を受けられるようになります。
たとえば、業務に関する教育訓練。
派遣先は正社員に対して業務の遂行に必要な教育訓練を行う場合、派遣元が実施不可能な内容であるものについては、派遣労働者に対しても教育訓練を実施しなければなりません。
また、派遣労働者であるという理由で使えなかった福利厚生施設(給食施設・休憩室・更衣室)も、利用できる機会を与えなければならいという決まりができました。
さらに派遣先の会社が運営している病院や浴場、保養所等の施設利用についても、社員割引といった優遇があるなら、派遣社員が利用する際も優遇されるように配慮しなければなりません。
つまり福利厚生でも、「正社員だからOK」「派遣社員だからNG」といったような待遇の差がなくなるということです。
※教育訓練や施設の利用などの待遇については、「労使協定方式」でも派遣先の正社員と均等・均衡の待遇が受けられます。
ここまでに紹介した労働者派遣法の改正のメリットに魅力を感じ、派遣社員としての働き方も考えてみようと思った人もいるかもしれませんね。
派遣のお仕事に興味をもったという方は、マイナビスタッフやリクナビ派遣といった派遣専門の求人サイトをチェックしてみると、仕事探しの参考になるでしょう。
2020年労働者派遣法改正のデメリット
2020年4月からの労働者派遣法改正により、正社員と派遣社員の不合理な待遇差が解消されるとあって、派遣社員の方々にはメリットばかりのように見えますよね。
でも実は、この労働者派遣法改正には思わぬ落とし穴があるのです。
派遣先が変わるたびに待遇が変わる可能性がある
まず最初のデメリットは、派遣先が変わると、賃金や福利厚生の待遇が変わる可能性があるいということです。
とくに「派遣先均等・均衡方式」で契約した派遣先なら、派遣先の正社員への待遇によって派遣社員の待遇が決まるため、時給やその他の手当が、前の会社と大きく変わる可能性があります。
派遣先が変わることで待遇が良くなるのであれば、とくに問題はないと思いますが、収入の安定性といった面では、少し心配ですね。
正社員の給与が下がり派遣社員の給与が上がらない可能性もある
派遣先の立場から考えると、法律の改正により派遣社員をはじめ、非正規雇用の労働者のコストがかかるようになってしまいます。
そうなると人件費の負担が大きくなってしまうので、正社員の給与や賞与にも影響する可能性があります。
もし労働者派遣法の改正が原因で正社員の給与や賞与が下げられてしまったら、派遣社員も給与面での待遇の改善は望めません。
それだけでなく、正社員から不満の声が上がる可能性もあるため、派遣社員は肩身が狭い思いをするかもしれません。
※厚生労働省のマニュアルでは基本的に、労使で合意することなく、通常の労働者の待遇を引き下げること(不利益変更)は望ましい対応とは言えないとしているため、こういった対応をする企業は少ないかと思われます。
派遣労働者の業務内容がより限定される可能性がある
「同一労働同一賃金」は正社員と同等の待遇にしなければいけないというルールであって、すべての派遣労働者の給与額を、正社員とまったく同じ給与額にしなければならない、という決まりではありません。
つまり業務内容や責任等に明確な差があれば、給与額に差が出るのは問題がないということです。
そうなると、給与額の明確な理由付けのために、あえて派遣社員の業務が制限される可能性があります。
色々挑戦したいという、モチベーションが高い派遣労働者にとっては、成長ができず辛い状況になるかもしれません。
派遣労働者の採用が減る可能性がある
そもそも企業が派遣労働者を雇う目的は、低コストで人材を確保することにありました。
もちろん人材派遣会社の利用にはお金がかかります。
ですが、正社員を雇うことで賃金に加えて社会保険料や交通費、退職金を支払わなければならないため、それに比べると人材派遣会社を通してでも派遣社員を雇うほうが、人件費を低コストに抑えることができるのです。
ですが労働者派遣法の改正により、派遣労働者だからという理由で正社員よりも給与額を低くしたり、交通費や退職金の支払いをしないということは許されなくなります。
企業にとって派遣労働者を雇うメリットが薄くなってしまったことは確かなので、法の改正を機に派遣労働者の契約更新を行わなかったり、新たに派遣労働者を雇用することがなくなるかもしれません。
派遣労働者が雇用しにくい存在になってしまうのは、企業にとっても派遣労働者にとってもデメリットであると言えるでしょう。
以上が、2020年の労働者派遣法改正の内容となります。
労働者派遣法とは?2015年までの労働者派遣法
2020年の労働者派遣法について紹介しましたが、労働者派遣法が改正されるのは、今回がはじめてではありません。
そもそもみなさんは労働者派遣法の正式名称を知っていますか?
労働者派遣法の正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といい、その名称のとおり、労働者派遣法は派遣労働者を守るための法律です。
この法律は1986年に施行され、過去数回改正が行われてきました。
この章では派遣の誕生からさかのぼり、労働者派遣法の改正と派遣社員が働く環境の変化について、わかりやすく解説していきたいと思います。
1986年労働者派遣法施行
最初に労働者派遣法が施行されたのは1986年。
特別な技能が必要な13業務(同年16業務に変更)において、一時的に外部から労働者を借りる手段として「派遣」は誕生しました。
当時、派遣社員として同じ会社で働ける上限は1年と、期間も短く限定されたものでした。
その後1996年に16業務はソフトウエア開発や機械設計、通訳や秘書、財務処理担当など、専門性の高い業務を中心に26業務に拡大。
この専門性の高い26業務を政令26業務といいます。
業務が限定されていて働ける期間も1年と短いし、今の派遣とは全然違いますね。
そうですね。派遣業務が原則自由になったのは1999年です。
政令26業務以外の業務でも派遣社員として働けるようになりましたが、働ける期間は政令26業務とそれ以外で異なり、政令26業務は3年、それ以外は最長1年間でした。
その後2000年に、紹介予定派遣という制度ができるのですが紹介予定派遣は知っていますか?
最初は派遣社員として働いて、期間満了後に正社員として働けるという制度では?
そのとおりです。
紹介予定派遣は、派遣先企業に直接雇用されることを前提に一定期間(最大6カ月)派遣として就業し、期間終了後に企業と本人が合意した場合、直接雇用として採用される新しい派遣のかたちです。
派遣社員として働く人の雇用がより安定するように、紹介予定派遣が誕生したんですよ。
2004年に派遣社員の雇用期間が3年に延長
2004年、政令26業務の派遣期間は3年から無制限に、それ以外の業務は1年から3年に働ける期間が延長されました。
さらに2006年には医療関係業務の一部で派遣が解禁。
2007年には製造派遣の派遣期間が1年だったものが3年に延長されるなど、派遣社員の働く環境はどんどん変わっていきます。
2012年労働者派遣法の改正による3つの変化
そして2012年の改正では大きく3つのことが変わりました。
まずは名称。
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から現在の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」へ変わりました。
労働者派遣法は、派遣労働者の働く環境を整える法律から、派遣労働者を保護するための法律へ変わったことがわかります。
また、政令26業務は28業務へ拡大されました。
そして3つ目の変化として、事業規制の強化、すなわち派遣労働者が正社員などと比べて不利な働き方にならないように派遣会社に対して義務が課せられました。
派遣会社に課せられた義務は以下の4つです。
- 日雇い派遣の原則禁止
日雇いの仕事は短い期間で労働契約が終了するため、責任の所在が不明確になりがちです。
そのため、「働く人が働きやすいような環境を作る」という雇用者側が果たすべき責任が守られず、違法な業務へ派遣されたり、派遣先で労働災害が発生する原因になることがあり原則禁止となりました。
- グループ企業内派遣の規制
グループ企業内に派遣会社を作り、派遣先の大半をグループ内でまわすと、労働力が社会全体へ行きわたらないことが懸念されるため規制されました。
- 離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止
同じ人を正社員から派遣社員のように雇用形態を変えて雇うと、賃金の値下げが発生するために禁止されました。
- 派遣料金と派遣賃金の差額(マージン)等の情報公開を義務化
2009年リーマンショック後の、雇用情勢の急激な悪化に伴い派遣労働者を保護するための試みです。
派遣料金は派遣会社が派遣先企業へ請求するお金、派遣賃金は派遣社員の給料のことを言います。
では差額(マージン=派遣会社の取り分)が大きい派遣会社には登録しない方がいいのか、というとそうではありません。
差額が大きいのは福利厚生が充実している、教育訓練の機会が豊富だからという派遣会社もあります。登録の際には、情報の細部までしっかり読むようにしましょう。
2015年労働者派遣法の改正による6つの変化
2015年の改正では大きく分けて6つの点が改められました。
これまでの労働者派遣法改正に比べると、2015年は大幅な変化があったと言えます。それでは詳細を見ていきましょう。
1. すべての労働者派遣事業を許可制に
見出しの労働者派遣事業とは、いわゆる派遣会社のことです。
2015年以前は許可要件を満たしていなくても派遣事業ができ、そのような業者を特定労働者派遣事業(届出制)といいました。
2015年の改正では届出制を廃止し、派遣会社は厚生労働省による許可要件の審査をクリアしなければ営業できない、労働者派遣事業(許可制)に統一されました。
2. キャリアアップ措置実施の義務
- 派遣労働者は、派遣会社から段階的かつ体系的な教育訓練、キャリア・コンサルティングが受けられる。
- 派遣会社は教育訓練やキャリア・コンサルティングに対応しなければいけない。
これら2点の措置により、派遣労働者も働きながらのスキルアップが可能になりました。
段階的かつ体系的な教育訓練とあるため、基本のビジネスマナーを心得ている人には次の段階の研修を、パソコンの基礎知識がある人には応用の操作をといったように、その人のレベルに応じた教育研修が受けられます。
たとえば、リクルートスタッフィングなら、基本的なビジネススキルやビジネスマナーを自宅で学ぶことができる e ラーニングサービスが無料で利用できます。
その他、研修センターで情報セキュリティ研修、OA 研修、ビジネスメールの書き方などを無料で学ぶことも可能。
さらに、TOEIC や日商簿記3級、貿易実務検定 C 級の試験対策講座も開講しており、資格によっては通常よりも4分の1の受講料で学ぶことができます。
スキルアップを目指す方は、ぜひこのようなサービスを利用していただきたいです。
3. 雇用の安定を図るための改正
2015年の改正では「同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある人には、派遣終了後の雇用継続のための措置を行わなければならない。1年以上3年未満の見込みの人は努力義務となる」という義務が派遣会社に対して課せられました。
雇用継続の措置は以下のとおりです。
- 派遣先へ直接雇用の依頼をすること
- 新たな派遣先を提供しなければいけない(派遣先は合理的なものに限る)
※合理的=経験を活かせる等が該当します。 - 派遣元(派遣会社)での無期雇用(派遣労働者として以外)
- その他、安定した雇用の継続を図るための措置を行う(雇用契約中に教育訓練を行う、紹介予定派遣を紹介するなど)
- 1を実行して直接雇用に至らなかった場合、2~4いずれかの措置を実行しなくてはいけない
また雇入れ努力義務といって、派遣労働者を受け入れていた部署に派遣終了後、新たに労働者を雇い入れる場合、その派遣労働者を雇い入れるよう勤めなければならないという義務も派遣会社に発生しました。
一方で派遣先企業には募集情報提供義務があり、求人があることを正社員やその他の労働者、派遣労働者に対して募集情報を周知しなければいけないことになりました。
上記について、派遣終了を間近に控えたAさんをたとえに説明しましょう。
派遣先企業では、Aさんの派遣終了後には、派遣でなく他の正社員を後任にする予定です。
その場合、派遣会社はAさんを優先的に採用してもらえるよう派遣先企業に働きかけなければいけません。
また派遣先企業は、正社員を募集する予定であることをAさんや他の社員に隠してはいけません、ということです。
4. 均衡待遇の推進について
派遣労働者が給与や待遇についての説明を希望した場合、派遣会社は「正社員とあまり差がないように考慮した待遇を確保するために配慮した内容」を説明しなければなりません。
「正社員とあまり差がないように考慮した待遇を確保するために配慮した内容」とは、以下のような内容です。
- 賃金設定は派遣労働者の職務内容や能力・経験などを踏まえたものであるか
- 教育訓練の機会を派遣労働者に与えるように交渉したか
- 福利厚生を正社員と同じように利用できるようお願いしたか
など
派遣先企業は、派遣会社から上記のような求めがあった場合、状況に応じて配慮しなければいけません(配慮義務)。※1
※1 2020年最新の法改正では、派遣会社からの求めに関わらず、教育訓練も福利厚生も正社員と同等に受けられるようにしなければなりません。
5. 期間限定に関する改正
2004年の改正で、政令26業務の派遣期間は無制限に、それ以外の業務は最長で3年となりましたが、2015年の改正では業務内容による期間の区分がなくなりました。
以前には専門的とされていた政令26業務が現在ではそれほど特別な技能とはいえなくなったものもあり、専門業務とそれ以外とに区別する意義がなくなったこと、政令26業務の定義が曖昧で企業側も困惑することが多かったことがその理由です。
これにより、業務の区別に関わらず派遣社員が同一の企業で働ける期間は3年が限度となりました。
6. 労働契約申込みみなし制度を追加
2015年の改正で追加された、労働契約申込みみなし制度とは、派遣先企業が違法派遣にあてはまると知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点で派遣先企業は派遣労働者に対して、派遣会社で契約した条件(時給や待遇など)と同じ条件で直接雇用の申込みをしたとみなされる制度です。
違法派遣の内容は以下のとおりです。
- 労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
- 無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合
- 期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合(3年以上派遣労働者として同じ人を雇っているなど)
- いわゆる偽装請負の場合※1
※1 偽装請負とは「書類上、形式的には請負(委託)契約であるが実態としては労働者派遣であるもの」をいい、違法行為にあたります。よく見られるパターンとして、「請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりする」ことが挙げられます。偽装請負についての詳細は、厚生労働省・東京労働局のホームページを参考にしてください。
「努力義務」「配慮義務」「義務」の違い
努力義務は、義務の履行は当事者の任意の協力・判断に委ねられており、義務履行のための努力をしていれば指導・助言・罰則等の適用対象にはなりません。
配慮義務は、義務の履行のために何らかの措置や対応を講じなければいけません。措置や対応をしていなければ指導・助言・罰則等の適用対象となります。
義務は、必ず行わければならないということです。行わなければ、指導・助言・罰則等の適用対象となります。
労働者派遣法についてのQ&A
労働者派遣法は表現が難しく、また派遣の仕組みは直接雇用の正社員や契約社員と違い複雑です。
この章では、労働者派遣法によく出てくる言葉や事柄についてQ&A方式で解説していきます。
- 派遣で働くにあたってしてはいけないことはある?
- 禁止事項は以下の3つです。
- 派遣禁止業務に就くこと。
- 派遣先となる会社と事前に面接を行うこと(派遣先となる会社は派遣労働者を指名することはできません。よって派遣開始前の面接や履歴書送付は禁止されています)。
- 以前に正社員・契約社員・アルバイトとして働いていた会社に、離職後1年以内に派遣労働者として働くこと。
- 派遣禁止業務とは?
- 労働者派遣できない業務(適用除外業務)は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」よって定められています。派遣禁止業務は以下の5つです。
- 港湾運送業務
業務が特殊であるため。
港湾における、船内荷役・はしけ運送・沿岸荷役やいかだ運送、船積貨物の鑑定・検量等の業務はNGです。 - 建設業務
建築工事現場における、土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊もしくは解体の作業、またはこれらの準備の作業に係る業務には特別な知識がいるため。
さらに労働者派遣事業とは別に、建設労働者の雇用の改善等に関する法律において雇用制度が設けられていることから禁止業務に該当しています。 - 警備業務
警備業法において、警備業務は請負形態により業務を処理することが求められているため。
事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地などにおける事故の発生を警戒し防止する業務が該当します。 - 病院や診療所などにおける医療関連業務
医師、歯科医師、薬剤師の調剤、保健婦、助産婦、栄養士等の業務。
2006年医療関係業務の一部で派遣が解禁されたことにより、特定の条件のもと看護師は派遣で働けるようになりました。 - 弁護士・社会保険労務士等の「士」業務
高度で専門的な知識と資格が必要な弁護士、司法書士、土地家屋調査士などの業務が該当します。
- 港湾運送業務
- 二重派遣とはどんな行為?
- 二重派遣は、派遣先企業が受け入れた派遣労働者を他社へ派遣することで、「いわゆる偽装請負」に該当する違法行為です。
- 抵触日とは?
- 派遣として働ける期間を過ぎた最初の日を抵触日といいます。
4月1日から働いたとすると抵触日は3年後の4月1日です。 - 抵触日を迎えるとどうなるの?
- 同じ職場で働くことができなくなります。
この場合、派遣労働者は「派遣先企業の直接雇用として働く」か「派遣会社に別の就業先を紹介してもらう」かのどちらかになります。
派遣先企業で直接雇用として働くには、派遣先企業の意志も必要ですし直接雇用=正社員とは限りませんので注意しましょう。
また派遣会社は個人の抵触日を把握しているので、抵触日を迎える前に次の勤め先について相談することがほとんどです。
抵触日を迎えてから慌てて次の就業先を探す、ということはありませんので安心してください。 - クーリング期間ってなに?
- 期間制限の通算期間をリセットする空白期間をクーリング期間といいます。
クーリング期間は3カ月超、つまり3カ月と1日以上です。
派遣先企業が派遣社員として同一の人を3年以上雇用したい場合、抵触日をリセットするためにクーリング期間を使うことが多いようです。ただ、クーリング期間を利用して派遣労働者として再雇用するには問題点があります。
企業側には、業務に慣れた人材を直接雇用より安いコストで人を雇えるというメリットがありますが、派遣労働者側はクーリング期間中の3カ月間の給料がない、年金・健康保険などを一時的に切り替えなければいけないなど多くのデメリットがあるのです。
また、派遣会社が同一の派遣労働者を同一の派遣先企業・部署に満了まで派遣したあと、クーリング期間をあけて再びその企業へ派遣することは、労働者派遣法の趣旨に反すること、派遣労働者のキャリアアップの視点から好ましくないことから指導等の対象になっています。
- 派遣社員が働ける期間は何年?
- 派遣社員は3年、契約社員は5年です。
平成25年4月1日に施工された改正労働契約法で、5年以上同一企業で働いた人は無期雇用を企業側に申し込む権利を得ることができる、いわゆる2018年問題は契約社員が該当します。
- 働く期間はどうして3年や5年で区切られているの?
- 派遣はもともと専門的な知識や技能を持つ労働者を、臨時的・一時的に派遣することが前提とされていたためです。いわば人材不足のための臨時スタッフでした。
また国は安定雇用を増やしたい、非正規の人が正規雇用になるチャンスを与えたいと考えています。
一時的な人手不足の目安を3年とし、3年以上は慢性的な人材不足と捉え正規雇用を勧めています。 - 同じ会社で3年以上働くことはどうしてもできないの?
- 働くことは可能です。
派遣先企業が3年以上、同じ派遣労働者を受け入れたいと考えた場合、派遣先企業の労働組合などから意見を聞き、過半数の了承を得なければいけません。この場合、1回の意見聴衆で延長できる期間は3年が限度です。
また、派遣先の事業所における同一の組織単位に対し派遣できる期間は3年が限度であることから、人事課から会計課など同じ会社の別の課でなら働くことが可能です。
【まとめ】派遣社員と正社員との待遇差は解消するがメリットの有無は見守る必要がある
いかがでしたか?派遣社員として働くことに不安を感じていた人も、労働者派遣法の改正によって以前より待遇がよくなることを、なんとなく実感していただけたのではないでしょうか。
今まで正社員の人とほとんど責任で、同じ働きをしていたにも関わらず、派遣社員であるという理由で満足のいく待遇が受けられなかった方にとっては、2020年の労働者派遣法改正のメリットが大きく感じられるかと思います。
ただ派遣労働者と正社員の待遇を平等にすることで、企業のコスト負担が増えてしまうため、派遣社員の採用が減ったり、契約更新がされない(いわゆる派遣切り)が増えるのではという懸念の声も多く聞きます。
2020年4月からの改正後、本当に派遣労働者にとってメリットがあるのかどうかは、しばらく様子を見守る必要がありそうです。
これから派遣のお仕事を始めようという方は、マイナビスタッフやリクナビ派遣といったサイトからお仕事をさがすことができるので、参考にしてみてください。